サッカー、バスケットボール、バレーボールは「世界の3大球技教材」と呼ばれ、どの国でも体育教材として位置づけられてきました。「経済的に安価である」、「多くの方が同時に楽しめる」、「技能的特長(足の技能、手の技能、指の技能)がはっきりしている」、「多くの子どもたちに人気がある」、などが主たる理由でした。
しかし、生涯スポーツ時代が到来し、これまでそれぞれの民族や地域で楽しまれていた多種多様なマージナル(周辺)スポーツやニュースポーツが登場し、すでに体育の教材として取り上げられるようになってきました。そのこと自体は否定されるべきではありませんが、200とも300ともいわれる多種多様な球技の中から、学校体育はどの球技を、どのような根拠に基づいて評価し、指導すべきか、大変難しい問題に答えていく必要が生じています。
日本体育大学大学院教授
筑波大学名誉教授
高橋 健夫 教授
この問題に答えるためには、球技教材で何を教えるのか、何を学ばせるのかを問いかける必要があります。球技によって学習すべき内容はいろいろありますが、器械運動や陸上運動と違って、球技に特有の学習内容は「戦術」であるという考え方が支持されるようになりました。ルールや戦術の観点から、球技は下表のように分類することができます。
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侵入系
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ネット・壁系
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フィールド系
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ターゲット系
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- a)ゴール型
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- a)攻防一体型
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- 野球
- セパタクロー
- ソフトボール
- クリケット など
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- b)陣取り型
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- アメリカンフットボール
- フラッグフットボール
- ラグビーなど
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- b)セット型
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- バレーボール
- セパタクロー
- プレルボール
- ファーストボールなど
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「ボールを操作する技能」(on the ball skill)の観点から見ると、球技はすべて異なっていて、それぞれに特殊な技能が必要になります。しかし、「ボールを持たない動き」(off the ball movement)に 着目すると、少なくとも上表のカテゴリーに属する球技の関連性は深く、種目を超えて動き方の転移が生じるといわれています。例えば、ハンドボールの上手な方はサッカーやバスケットボールでも高いゲームパフォーマンスを発揮します。
将来の学校体育では、このような分類に基づき、さらに子どもの発達段階に即してやさしい球技から難しい球技へと順に位置づけ、学習させていく必要があるのです。
フラッグフットボールは大きな教育的意義を持っています。フラッグフットボールがいかにすばらしいボール運動教材であるか、その理由について詳しく述べたいと思います。
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フラッグフットボールはゴール型に属しますが、さらにその中の「陣取り型(territory)」のボール運動です。
ゴール型のボール運動は、戦術的にもっとも複雑で難しい課題がありますが、それだけにボール運動の醍醐味を味わうことができます。しかし、戦術的な難しさの上に技能的な難しさが加われば、子どもたちにとっては学習が大変困難になり、ゲームの楽しさにほとんど触れられない者が数多く生じてしまいます。
その点で、フラッグフットボールはボールを持って走ることができるわけですから、鬼遊びの延長線上で誰でも容易に楽しむことができます。さらに、タグラグビーのようにボールを前に投げてはいけないという制約もありませんので、コートの中での自由度が格段と大きくなります。
鬼遊びに興じる子どもたちの姿を写真に撮ってみると、どの子も素晴らしくよい動きをしています。膝が柔らかく曲がり、次の動きに自在に対応できるようになっています。
それぞれの子どもが役割を持ち、自らの状況判断のもとで俊敏に動こうとしているためです。

ところが、ボール運動になるとそれぞれの子どもの役割が不明確になり、ボールを持っていない者は膝を伸ばして突っ立った状態になりがちです。フラッグフットボールは、技能的課題がやさしい上に、みんなが役割を担うため、鬼遊びと同じように、素晴らしい動きができるのです。
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フラッグフットボールはボールを持って走ることができるため、バスケットボールやサッカーよりもボール操作の技能はやさしくなります。
技能的にやさしければやさしいほど、戦術的な学習課題がクローズアップさせることができます。しかも、フラッグフットボールは、戦術や作戦なしにゲームが成立しないといっても過言ではありません。
実際、フラッグフットボールでは、攻撃のたびにハドル(作戦会議)を持ちます。ハドルで作戦を立て、それぞれの役割行動を決定します。その作戦に従ってゲームを実行し、うまくいったのかどうかが直ちにフィードバックされます。
攻撃のたびにPlan-Do-Seeのサイクルが成り立つのです。
このことは、フラッグフットボールが戦術学習に最高の機会を提供する教材であることを教えています。

フラッグフットボールで学習した状況判断やサポートの動きは、他のゴール型のゲームにも確実に転移することが証明されています。
このようなことからフラッグフットボールは、「ボール運動学習の原点」となるべき要素が含まれているのです。
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体育の授業でのバスケットボールやサッカーでは5分間のゲームで0対0で終わってしまうことも少なくありませんが、フラッグフットボールでは、頻繁に成功体験が得られ、多くの得点が取れます。
人数に制限を加えたり、攻撃に有利なようにコートの幅を広げたりすれば、子どもたちが立てた作戦が頻繁に成功します。
しかも、チームで立てた作戦に基づいて1人ひとりが役割行動を実行することになるので、能力の低い者や女の子もみんなが等しくゲームに参加することができます。
ゲームに参加する人数を少なくすれば、ゲームでの1人ひとりの役割は一層重要度を増し、また作戦が成功する可能性も高くなります。アウトナンバーにしてオフェンスに有利な条件を設定すれば、ますます成功する可能性が高くなります。このような意味で、フラッグフットボールでは、本当の意味で「集団的達成の喜び」を味わうことができるのです。
多くの子どもたちは、授業後の感想文で「試合には負けたけど、自分たちの立てた作戦が成功したので楽しかった」と語っています。みんなで計画し、みんなで協力して、苦労の末にみんなで成功し、喜びを共有する「集団的達成」の経験は、今日の学校で最も強く求められていることです。
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フラッグフットボールにかかわって多くのやさしいゲームが開発されてきました。「しっぽ(フラッグ)取り鬼遊び」「宝運び鬼(インベーダーゲーム)」「ワンボックス・フラッグフットボール」などです。これらのゲームであれば、小学校の低学年でも十分に楽しむことができます。また、これらのゲームは、高学年の段階でも「タスクゲーム」として活用できるでしょう。
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学習指導要領体育科の目標の冒頭に「心と体を一体としてとらえ」と表記されているように、運動学習は本来「知・徳・体」を統合した全人的活動です。しかし、そのことはあくまでも可能性であって、そのことを確実に実現するには、効果的な教材と方法を適用する必要があります。

その点で、フラッグフットボールは、知的な作戦づくり、チーム内の役割行動や協力、巧みな身体能力が求められる教材です。換言すれば、フラッグフットボールは「頭と手足」、「知性と感性」、「思考と行動」を意図的に統合することが求められるスポーツです。
特に、他のスポーツに比べて知的な活動がきわめて重要な役割を果たす運動であり、そのことがフラッグフットボールに他のスポーツにはみられない独自な教材価値を与えているのです。
このように、戦術学習を中核とする球技の教材体系から見て、フラッグフットボールはもっとも価値の高い教材です。すべての子どもたちに、フラッグフットボールを通して戦術学習の楽しさを味わわせていただきたいのです。